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銀影あゆの釣りライフ 鮎釣り行脚2013

『釣りと自分』遠い記憶・・・ 6

親父さんは名手だったって聞いてるけど、何で教えてくれなかったん

だろう。

会計が終わり、お客さんの席を片付けながら僕は疑問に思った。

 

『銀影ちゃんは色んな釣りをやるけど、それも親父さんから教わって無い

 って事?じゃあ、全部独学な訳なの』

 

『そうですねー。親父はほとんど鮎釣り一本だったから、他の釣りと言っても、一緒に行ったのは、渓流の山女とかワカサギとかくらいかなぁ

 あと1回だけ親父の付き合いの同伴でハゼに行ったっけ。』

『親父が結婚する前とか、俺が生まれる前は他の釣りもしたらしいんだけど、あまり聞いた事が無いなー。道具は沢山あったけどね。』

 

彼の親父さんも飲食業をやっていたという。きっとお店の忙しさから

色んな釣りが出来なくなったのかも知れない。僕のように・・・。

彼に背を向け、グラスを拭きながらそう考えていたら、

彼の口から驚く事を聞いた。

 

『うちの親父は夏になれば鮎に行ったきりで1ヶ月以上も帰ってこない

 なんて事もあったからなー。僕らと一緒で狂っちゃったんじゃないかな

 鮎に。ハハハ』

 

『えっ!だってお店やってたんでしょ?』

 

週に1度しか休めなくて、ただでさえシーズンの短い鮎釣り。

たまの休みに川が濁ってしまうともうがっかりなのだ。

そういう時は遠い川でも出来そうであれば行ってしまうのだが、

シーズンが夏ということも有り、全国的な台風だと諦めるしかないのである。

 

『そうですよ。お店はやってましたが、とにかく夏以外は滅茶苦茶に

 働いて、夏は一気に休むんですよ。

 子供ながらに心配になる位にね。俺には(夏は暇なんだよ)

 なんて言ってたけど、まさかそこまでして鮎釣りに行こうと

 しているなんてね。凄いと思うけど、母親は呆れていましたよ。』

 

なんと剛毅な人だろうと僕は思った。

体調を崩して何日も休めば常連が減ると思い、実家に帰るのも正月だけに

してなんとか自分の城を守ってきたけれど、世の中にはこんな人もいるんだ

と、僕はオープンしてから変わらない、この店の随分悩んで買った

カウンターの照明を少しばかり見上げていたのだった。




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